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The Last Legion 最後のローマ軍団/カエサルの魔剣

イギリス映画 (2007)

トーマス・サングスター(Thomas Sangster)が、西ローマ帝国最後の皇帝ロムルス・アウグストゥスを演じる いわゆる歴史物。ティーン以下の少年が、戦闘を主体とする古代もので主役級になったごくごく稀な例。ただし、歴史に忠実なわけではなく、後のアーサー王伝説と結びつけるなど「お遊び」も目立つ。主役のアウレリウスは、それまでの役柄とは畑違いのコリン・ファースが演じる。監督によると、『グラディエーター』や『トロイ』のような屈強な英雄は描きたくなく、知性を前面に出せる役にしたかったとか。位階は “Commander” と曖昧だが、恐らく軍団(レギオン)の総司令官の下につく軍団長クラスであろう。もう1人の主役は、皇帝になる前にはロムルスの教師を務め(剣術ではなく教育)、亡命後はメンターとなる謎の人物アブロシーヌス。演じるのはオスカー俳優ベン・キングズレーだ。物語は、12歳で帝位に就いたロムルスが、2週間あまりでゴート族の将軍オドアケルに退位させられ、カプリ島に幽閉される。アウレリウスの主導でロムルスはカプリ島から脱出したが〔島で、隠されていたシーザーの剣を見つける〕、東ローマ帝国から命を狙われたため、逃げる先は第9軍団のいるブリタニアだけとなる。映画の後半の舞台はブリタニア(イギリス)へと移り、ハドリアヌスの長城での 魔性の王ヴォーティガンとの決戦が映画の最後を飾る(もちろん、子供のロムルスが直接戦うわけではない)。勝利を勝ち取ったロムルスは平和を宣言する〔ロムルスは後にペンドラゴンと名を変え、アブロシーヌスは本来のアンブローズの名に戻り(魔法使いマーリン)、自分の息子アーサーにシーザーの剣を託す〕。映画は、冒頭460年と表示され、12歳のロムルスがローマの街を俯瞰する巨大な像に立つシーンから始まる。ロムルス・アウグストゥスは実在の人物だが、生まれたのは、最新のデータで461年頃とされ〔460年には生まれていない〕、即位は475年10月31日〔即位時の年齢は12歳ではなく14歳頃。ただし、トーマス・サングスターは、年齢の割に幼く見える。1990.5.16生まれで、映画の撮影は2005年8月5日~11月11日なので撮影時15歳だが、声変わりしていないし、12歳に見える〕。歴史上のロムルスは翌476年9月4日にオドアケルに退位させられるが(父は処刑)、その時にいたのは、ローマではなくラヴェンナ〔西ローマ帝国の首都は402年からラヴェンナ。だから、ローマにいるはずがない〕。退位後は、今のナポリにある卵城(Castel dell'Ovo)に移され、以後の消息に関する同時代の記録はない〔少なくとも、当初は幽閉ではない。年に金貨6000枚が与えられたとの説もある〕。さらに、ローマ軍は既に407年にブリタニアを撤退しているので、ロムルスが英仏海峡を渡っても第9軍団はいない。映画は作り話なので、観客に感動や興奮を与えるものがありさえすれば、歴史との不一致などは問題ではない。しかし、その点でも、この映画はうまくいかなかった。IMDbは3万票以上で5.4〔並み以下〕、Rotten Tomatoesは僅か16%(9/56)、受賞歴はゼロ、そして3500万ドル(39億円)の製作費〔イギリス映画としては最大級〕に対して興行収入は2530万ドル(28億円)と大きな赤字を出している。何が悪かったのであろう? すべては監督の責任なのだが、歴史物に、変なファンタジーを混ぜ込んだ結果、全体が安っぽく浮いてしまった。黄金のマスクをつけた魔性の王ヴォーティガンが現れる後半の 現実離れした軽さ、そして、アブロシーヌスがマーリンになるご都合主義のエンディングが、ベンハーやグラディエーターのような古代ローマものを期待した観客をがっかさせたことは否めない。少し後に作られたイギリス映画『センチュリオン』(2010)や『第九軍団のワシ』(2011)も、偶然 第9軍団をテーマにした歴史映画だが、前者は、低予算14億で興収は7億と不審、後者は予算28億で興収は28億とトントン、この種のものはウケないのかもしれない。なお、この映画の原作本が『カエサルの魔剣』という題で翻訳・出版されているようなので、副題として添付する。

西ローマ帝国の末期、1人の皇帝が即位する。名前は、ロムルス・アウグストゥス。ロムルスはローマの建国神話に登場するローマの建設者、アウグストゥスはローマ帝国の初代皇帝。2つの名を併せ持った皇帝が、西ローマ帝国最後の皇帝となるとは、本人も知る由もなかった。皇帝は若干12歳。テオドシウス朝(379~457年)が終わってからは、皇帝の系譜と関係のない人物が次から次に皇帝となったため、ロムルスも帝王教育などは受けていない。唯一の強みは、ブリタニア出身のアブロシーヌスという不思議な人物が、小さい頃から教師として指導にあたっていたこと。ロムルスが帝位について僅か14日で、協定を破ったゴート族の将軍オドアケルによって父母を殺され、退位させられる。そして、その幼さから、処刑をまぬがれ、カプリ島の砦に幽閉される。それを救ったのは、ロムルスが即位する前日に「顔見知り」になったローマ軍の司令官アウレリウス。アウレリウスは即位とともに、ロムルスの父親から身辺警護の指揮官に任命されていた。その時の「皇帝を命にかえて守る」という誓いを守り、部下を連れて救出に乗り出す。一方、ロムルスとともに島に流されたアブロシーヌスは、長年捜し続けたシーザーの剣が砦に隠されていることに気付き、ロムルスはその剣を手に入れる。ロムルスは、シーザーの血統を受け継いでいるので、アブロシーヌスも、シーザーの剣の所持者に最も相応しい人物だと確信する。アウレリウスらと共に島から脱出したロムルスは、アウレリウスの進言を受け、唯一可能な安全な逃亡先としてブリタニアを選択する。しかし、一行がブリタニアに着くと、頼れるはずの第9軍団は存在せず、残虐な王ヴォーティガンによって国土は荒廃していた。アウレリウスは、ロムルスの身分を隠し、第9軍団が農民化して移り住んだ村に身を寄せる。しかし、ヴォーティガンは、ロムルスを追ってブリタニアまで渡ったゴート族の武将から「シーザーの剣」がブリタニアに戻ってきたことを知り、ロムルスを捕獲しようとする。アウレリウスは、ロムルスを救う唯一の途として、元第9軍団の兵士から有志を募り、ハドリアヌスの長城にある砦に立てこもり、ヴォーティガンと対峙する。そして、最後の決戦。アウレリウスらの奮闘、アブロシーヌスの活躍、元第9軍団の総司令官の決断もあって、ローマ側が勝利する。ロムルスは、アウレリウスを、「命にかえて守る」という誓いから解放し、「もう戦争は必要ない」とシーザーの剣を放棄する。後日談として、ロムルスはアウレリウスに育てられ、ペンドラゴンと名を変え、良き統治者になる。そして、生まれた子がアーサー。アブロシーヌスは、昔の名、マーリンに戻り、アーサーのお守り役を務める。なお、あらすじでは、特例として、オリジナル・サイズの画像(1:2.3)を使用した。

トーマス・サングスターの撮影時年齢が信じられない。しかし、メイキング映像の中に、即位式の場面の撮影時のカチンコに、「2005 August 8」とちゃんと書いてある。確実に15歳と3ヶ月23日だ。これで声変わりしておらず、顔も12~13歳に見える。トーマスは、声変わり前の3本、『ラブ・アクチュアリー』(2003)、『ナニー・マクフィーの魔法のステッキ』(2005)、『トリスタンとイゾルデ』(2006)、そして、声変わり後で撮影時17歳以下の『ピノキオの大冒険(TV)』(2008)、『ブライト・スター/いちばん美しい恋の詩』(2009)まで、様々な役をこなしている〔日本公開されていない映画(TV映画を除く)は、この作品だけ〕。ロムルス役は、特殊なシチュエーションなので、なかなか難しい役どころ。いつもの精彩に欠けるのは、監督の演技指導に迷いがあったのでは、と推測する。


あらすじ

映画の最初に、アブロシーヌスの独白が入る。それは、「征服者ジュリアス・シーザーのために鍛えられた偉大な力を持つ剣に関する言い伝え」に関するもので、「この剣は、シーザーの最後の血筋ティベリウス帝(AD14-37)まで伝えられたが、死後は悪の手に渡らないよう隠された。何世代にもわたり 五芒星の印の刻まれた秘密の場所に置かれ、文字通り、シーザーが見張っていた」というものだ。そして、画面はローマの市街を見下ろす高台に建てられた巨像の肩の上に立つロムルスへと移行する(1枚目の写真)。真下にテヴェレ川の屈曲部が見え、右手にコロッセウムが見えるので、像の右手はローマの七丘の1つアウェンティヌスになる。ということは、映画のこの場所には山はないので、あくまで架空の場所だ〔最初に述べたように、そもそも、北イタリアのラヴェンナにいないといけない…〕。次に、像の肩から飛び降りたロムルスが、壁の上から 通りを見ている構図に変わる(2枚目の写真)。ロムルスは、壁に立てかけてあった梯子の丸太でできた側木を一気に滑り降りる。


通りの脇のテントのような仮設住居の中では、外地から戻った司令官のアウレリウスが、自分の鎧を見ながら、「また、これを着るのか」と溜息混じりに部下に話しかけている。アフリカで10年も戦ってきたのに、また重大な任務を与えられそうなので つい不満を漏らしたのだ。その時、鎧に関心を抱いたロムルスが、テントをまくり上げて裏から侵入し、鎧の脇に付いていた剣を鞘から引き抜いて刃に見入る(1枚目の写真、顔には刃からの反射光が当たっている)。すると、背後からいきなり剣を取られ、「アレクサンドリアでは、盗っ人の手は切り落とされるんだ」と言われる(2枚目の写真)。「そんな、お願いだ」。「一度手を切り落とされたら、死ぬか生きるかは神が決める。そして、ほとんどは死ぬ」。ロムルスが逃げようとしたので、アウレリウスは部下の大柄の黒人を呼ぶ。「外でやれ。ここだと辺り一面、血だらけになる」。もちろん、ただの脅し。


外に連れ出されたロムルス。若い兵士に、「誰です?」と訊かれたアウレリウスは、「盗っ人。現行犯だ」と答える。ロムルス:「盗っ人ではない」。黒人兵:「片手ですか両手ですか、司令官?」。アウレリウス:「片手でいい」。ロムルスは、小広場の中央にある水呑み場まで連れていかれると、片手で持ち上げられ、水の中に落とされる(1枚目の写真、矢印はロムルスの頭)。ロムルスが水から出ようと手を枠に置いたところを、黒人兵にがっちりと捉まれ、「切り落とすぞ」とばかりに大きな剣を腕に突きつけられる。「やめろ、お願いだ。盗もうとしたのではない。誓って本当だ」(2枚目の写真)〔こう訳したのは、「ロムルスの少年時代については明らかではないが、父親が政府の最高位に就いていた以上、当時の貴族の子弟に相応しい教育を受けていたと思われる」とBBC History Magazineに書いてあったため〕。「誓うだと? お前が? 浮浪児で、盗っ人の? そんな奴の言うことが、なぜ信じられる?」。「ただ、見たかっただけだ」。アウレリウスは、ロムルスに自分の名を告げた上で、「嘘をついているか?」と訊く(3枚目の写真)。「嘘などつかぬ」。この言葉で、アウレリウスは解放してやる。しかし、この場面、どうしても納得できない。写真でも分かるように、ロムルスの服は、全身が深緑色で、アームホールに沿って金茶色の文様入りの細い帯状の飾りが入っている。普通の子供が着るものではない〔ロムルスの父は、ローマ全軍の頂点に立つ人間で、ロムルス自身も翌日には皇帝に即位する〕。「浮浪児」と見間違えるハズがない。ロムルスも、そんな家柄なのだから、もっと違う対応を示しても おかしくはない〔平安時代、京の都で、天皇の御子が貴族でもない兵士に絡まれたとして、おどおどするだろうか? もっと高飛車に出るのでは?〕


そこに、ロムルスの教師のアブロシーヌスが姿を見せる。「敗者に対する恩情ですかな、司令官。ローマの兵士の勇敢さを拝見することは心強いですからな」。「お前は誰だ?」。「取るに足りぬ教師になる屈辱を知りし者です」と言いながら、アブロシーヌスは濡れたロムルスに白いローブを掛けてやり、「大丈夫か?」と言ながら、ローブで濡れた顔を拭く(1枚目の写真)。アウレリウスが、「子供を連れて去るがいい」と言うと、「いつ去るかは 我らが決める」と反論。それを聞いた若い部下が、「行けと 言われたんだぞ」と言いながら寄って行くと、アブロシーヌスは巧みな動きで水呑み場に投げ飛ばす。怒った兵士が、枠に置いてあった石(?)をつかんで投げると、アブロシーヌスは素手でキャッチする(2枚目の写真、矢印は石?)。そして、それを手で握り潰すようにして再び手を開くと、石は白い鳥の羽毛に変わっていた。ロムルスは、宮殿に入りながら「あなたの助けなど、必要なかった」と言い、アブロシーヌスは「どのみち、ギリシャ語の授業を逃がしましたな」と応じる。2人が中に入ると、ちょうどゴート族の将軍オドアケルとその部下ウルフラ〔ゴート語で狼の意味〕が到着する。そこで、2人は隠れ場所から、オドアケルと、ロムルスの父オレステス、元老院の有力者ネストルとの交渉を見守る(3枚目の写真)。オドアケル:「10年間、ローマを支えてきた。俺の兵士が、10年、お前たちの軍団と共に戦ったんだ。だから、分け前を要求する」。ネストル:「分け前とは何だね、将軍?」。「イタリアの3分の1だ」。ネストルが鼻で笑う。オドアケル:「冗談だと思うのか?」。ネストルは、「本当なのかオレステス? そんな約束をしたのか?」と尋ねる。オレステスは、「まさか。私のものでもないものを与えるなど、約束できるはずがない」と言下に否定する。オドアケル:「イタリアの3分の1だ。そうすれば、同盟は続くし、お前の新しいシーザーも、その前の何人かのように死なずに済む」。オレステス:「既に与えた褒賞以上には、何も約束しない」。オドアケル:「お前は偉くなり過ぎて、誰の肩に乗っているか忘れたな」。こう言い残すと、将軍は去って行った。


ロムルスたちが、隠れ場所から出てくると、母が寄ってきて、「ロムルス。どこにいたのです? あちこち捜したのですよ」と声をかける。そして、その直後に現れた父は、「アブロシーヌス、そちは、護衛なしで彼を連れ出したのか? 危険なのだぞ」と叱る。「よき朝でしたので、共に散歩しようと思いました」。「散歩だと? 明日、何があるか知っておろう?」(1枚目の写真)。そう言って、父はロムルスと一緒に去ろうとする。「十分承知しております。ご子息には、あなた方以上に気をかけて参りました」。これは明らかに言い過ぎだ。だから、父は、「何だと? 言葉が過ぎたな」と𠮟る。その後で、母が父に、「ロムルスがただの子供だということを、忘れていませんか?」と質すと、父は「ロムルスは、そなたの血、シーザーの血統を引いておる。ただの子供ではない」と言う。映画では、ロムルスの正式名をRomulus Augustus Caesarと最後にシーザーの名を付けている。それは、ロムルスが、映画の冒頭にあったシーザーの剣を継ぐ者になるという筋立上の都合からきている。参考までに史実では、ロムルスの正式名はRomulus Augustusのみ。ロムルスの父も母もローマの貴族の出だが〔父は属州パンノニアの出身、アッティラに仕えて頭角を現し、西ローマ帝国皇帝ユリウス・ネポスに引き立てられ、最後は裏切って廃位に追い込んだ〕、シーザーとは関係がない。オレステスが自ら皇帝とならずに息子のロムルスを帝位につけたのは、ロムルスを操り人形にして自分が目立たない方がいいと考えたためとされている。だから、ロムルスの金貨(右の写真)は鋳造されたが、記念碑などは一切作られなかった。少し脱線したが、先ほどの場面の後、今度は、ロムルスが母と話すシーンがある。「母上、5年間で5人の皇帝が出て、みな殺されました。私は、どうなるのですか?」(2枚目の写真)〔参考までに、5人は史実では、①恐らく毒殺、②処刑、③自然死、④死因不明、⑤ダルマチアに亡命し帝位の正当性を主張〕。母は「あなたは、最高の者に守らせます。長生きして、賢く治めるでしょう」と慰める。


翌日。居並ぶ兵士の間を、ロムルスを乗せたチャリオットを多くの元老院議員が先導する(1枚目の写真)。宮殿の前でチャリオットを降りたロムリスが宮殿に入って行く。並んでいる兵士の中にアウレリウスや黒人の部下たちもいる。彼らに気付き、睨むような目で見るロムルス(2枚目の写真)。昨日からかった少年が新皇帝だと知って動揺するアウレリウスたち(3枚目の写真)。


いよいよ皇帝の就任式〔戴冠式という言葉が使われるのは、ビザンチン帝国や神聖ローマ帝国以降〕が始まる。直前に、父オレステスがロムルスの頭を両手で抱き、「この日、そなたは神になる」と厳かに語りかけて頭に口づけをする(1枚目の写真)。その後、神官が簡単な冠を頭に被せ、就任式は終了する〔冠の上に十字架がついているが、真偽は不明。この時代の西ローマ帝国は、キリスト教を国教化した4世紀のローマ帝国と違い、異教徒が支配した時代でもあり、オレステスの父も異教徒だった〕。宮殿の入口まで出て行ったロムルスは、群集に向かって手を上げる(3枚目の写真、建物はCGだが、人間はすべてエキストラ)。群集からは、一斉に、「シーザー! シーザー!」という歓声が巻き起こる。


式を終えたロムルスは、母に不満そうに話しかける。「母上、私は世界中で最も強大な男なのですね?」。「そうです」。「ならば、なぜ皇帝となったその日に、外に出られないのですか? 私は何なのです? 神ですか、子供ですか?」 (1枚目の写真)。「あなたは、シーザーです。私のシーザーは守られねばなりません」。「誰が、私を傷付けるのです?」。その時、アブロシーヌスが口を開く。「あなたが ご覧になった人物、ゴート族のオドアケルです」。そこに、父が入ってくる。「彼は、味方だ。そちは、言葉と算術の教師であろう。国政に口出しなどするな」。「私の唯一の関心事は、若君の安泰です」。「そちにはもはや関わりなどない。彼は、今やシーザーだ」。「まだ、子供です。まだ私が必要です」。「そちの仕事は終わった。去れ。二度と戻るな」。こうしてアブロシーヌスはクビになる。代わりに父が連れて行ったのは、アウレリウスのところ。「この者は、ノヴァ・インヴィクタ〔架空の名称〕のアウレリウス。そなたの身辺警護を指揮する」、と紹介する。ロムルスは、昨日のことはおくびにも出さず、「司令官、剣を見せてもらえるか?」と声をかける。ロムルスは剣を見ながら、「彼は、私を守るのに全力を尽くすのですね、父上?」と尋ねる。父:「それが役目だ」。アウレリウス:「命にかえても〔To the last breath〕」。「剣にかけて誓いますか?」(2枚目の写真)〔昨日、「誓う」という言葉を使ったのを受けての台詞→昨日 誓ったのに信用してくれなかったことに対する言外の皮肉が込められている〕。父は「当然だ。仕えると誓ったのだから」と口を出すが、ロムルスはあくまでアウレリウスに、「そうですか、司令官?」と念を押す(3枚目の写真)。アウレリウスは、頭を下げる。ロムルスは、「ありがとう」と剣を返す。「見たかったのです」〔昨日の言葉のくり返し。昨日の自らの動機を敢えて正当化した。こうしたロムルスの真摯な態度に、アウレリウスは感服したのであろう。ロムルスが亡命の身となってからも、ずっと守り続け、良き友となる〕


ロムルスが即位して14日後〔映画では期間不明だが、メイキングでトーマスは14日と言っている〕、深夜未明、ロムルスの宮殿はオドアケルの軍に襲われる(1枚目の写真)。不意をつかれた守備隊は、簡単に城門を破られ、後は多勢に無勢。父オレステスは、オドアケルの一番の武将ウルフラの投げた斧で絶命する(2枚目の写真、矢印は胸に刺さった斧。すぐ後ろにロムルスと母がいる)。そして、その直後、今度はウルフラの投げた槍が母を串刺しにする(3枚目の写真、背後にいるのが父を看取るロムルス)。ウルフラは、ロムルスにとって、父母の命を惨たらしく奪った仇敵になった。ロムルスは宮殿内に逃げ込むが簡単にウルフラに捕まってしまう。しかし、体を吊り下げられた体勢で、ロムルスはウルフラの腰の短剣を引き抜くと、そのまま股に突き刺す(4枚目の写真、矢印は刺さった短剣)。恨みの一端は晴らしたことになるが、逆に、ウルフラからは逆恨みされることになる。


ロムルスは、玉座に座ったオドアケルの前に連れて来られる。先ほど股を刺されたことを恨んでいるウルフラは、「こいつの血にはシーザーの血が流れている。最後の血統だ。今すぐ終わらせよう! 古きローマは死に、達が仕切るんだ!」と将軍に迫る(1枚目の写真)。オドアケルは、No.2がしゃしゃり出て、かつ、「俺達」などと、自分を格上げするような表現を使ったことに怒り、「気をつけろ。お前は、後先なしに口走る癖があるぞ」と咎める。ロムルスに向かっては、「俺は、お前を恐れるべきか?」と訊く。ロムルス:「なぜ、シーザーを特別扱いする?」。「なぜ、シーザーを特別扱いするか… たぶん、ウルフラが正しいのであろう。ここで、今すぐ終わらせるべきかもしれん」と、ロムルスの喉に刃を近づける。そして、磨きあげた刃の面にロムルスを映して、「お前が見えるか? お前の顔が?」と訊く。頷くロムルス。「何が見える? 子供が見えるか? それとも、シーザーが見えるか?」。恐らく、「子供」と言えば、反攻のシンボルになることを諦めたとみて許しであろうが、ロムルスは「シーザーが見える。私はシーザーだ」と答えてしまう(2枚目の写真)。「悪い答えだ。連れていって首を切り落とせ」。その時、即位の後に解雇されて、ローマを出て行ったアブロシーヌスが現れて、「大きい間違いですぞ、オドアケル殿」と声を上げる。「子供を殺せば、犠牲者にしてしまいます。そして、シーザーの亡霊はあなたに生涯つきまとうでしょう」。その後の言葉の応酬の末、オドアケルを納得させた言葉は、「子供を恐れて虐殺するような支配者を ローマ人は尊敬するでしょうか?」というもの。この結果、オドアケルは考えを変え、「子供は、殺すより 生かしておいた方が役に立つ」と宣言する〔資料には、「ロムルスがまだ幼いのを見て哀れんで」と推測されているが、案外こうした算段もあったのであろう〕。これに対し、思惑が外れたウルフラは、「馬鹿だと思われたいのか? 2人とも殺そう!!」と怒鳴るように言う。オドアケルは、その言葉に激怒する。「馬鹿もん!! 栄達を望むなら、口を閉ざしてろ!」。そして、「手を出せ」と命じる。オドアケルは、ウルフラの左手の人差し指をつかむと、短剣で切り取る。そして、「子供はカプリ島の要塞に連れて行け。お前は、奴の牢番となれ。それが褒美だ。俺の命令なく、奴を傷つけるな。髪1本でもだ。分かったな?」と命じる(3枚目の写真、矢印は切断された指を庇う右手)。そして、アブロシーヌスを指して、「こいつも連れて行け。信用できん」と追加する。


オドアケルは、ロムルスの前に東ローマ帝国からの使者と会っていた〔当時の皇帝はゼノン〕。もちろん、オドケアルに会うためではなく、ロムルスの前の皇帝に会うために派遣されたのだ。使者は、「私は皇帝の目と耳ですが、代弁する者ではありません」と言って、オドアケルの即位を認めはしなかった。そして、謁見が終わってから、襲撃で生き残ったアウレリウス、及び、隠れていた元老院議員のネストルと内密に接触する。使者は、ロムルスがカプリに幽閉されることになったと伝える。アウレリウスは、即座に「私が連れ戻す」と言うが、ネストルは「カプリから? 不可能だ。島だぞ。天然の要塞だ」と否定的。2人の温度差が既に顕れている。アウレリウスは、耳を貸さない。「助力が必要だ」と主張する。使者は、「我々はずっと同盟国でした、議員。あなたのシーザーを自由になされるがいい。わが皇帝はシーザーが無事ローマに戻れるようになるまで庇護下に置かれることでしょう」と申し出る。翌日、ネストルは出立するアウレリウスに、「6日後に浜辺で使者に会う。もし、君が子供を連れ戻したら、舟で東に向かう手はずになっている」と伝える。アウレリウスには、「助力」として、使者に同行してきた護衛が1人与えられた。アウレリウスは、相手の異様な風体にあまり乗り気ではなかったが、生き残った部下が処刑されそうになるのを救い出すのに、見事に役立ってくれた。その頃、ロムルスとアブロシーヌスは、手に鉄枷をはめられ、鎖でつながれて、舟に連行される途中だった。休息の合間にロムルスはアブロシーヌスに寂しさを打ち明ける。「一緒でいたかった。父や母と」(1枚目の写真、矢印は鉄枷)。「一緒ですぞ。お二人はあなたの心の中に生きておられる。見ることはできぬが、あなたの隣の部屋におられるようなものだ」。「私も一緒に死ぬべきだった」。「あなたの定めではない」。「私には、定めなどない」(2枚目の写真)。「生きとし生けるものすべてに定めがある」。次のシーンで、2人は、ウルフラたちと一緒に舟でカプリ島に向かっている(3枚目の写真)。島に上陸したロムルスが、「残りの生涯をここで囚われの身として過すことが我々の定めなのか?」とアブロシーヌスに訊くと、「信念を持たれよ。すべての物事の裏に目的が働いている」と諭す。同じ頃、追っ手のアウレリウスは、東ローマの護衛がモナという女性であることを知る。そして、彼女の作戦で、舟を奪うことができ、仲間の戦士と共にカプリ島へと向かう。


アブロシーヌスは、要塞の海に張り出したテラスの上で、「ここは、偉大な皇帝ティベリウスが宮殿として建てたもの」とロムルスに説明している。それを聞いたロムルスは、「私の祖先は、私に牢獄を造ったのか」と元気がない。そこに、ウルフラが寄ってきて、「喉が渇いたろ。飲め」と木の椀に入った水を差し出す。親切そうだが、最後に、椀の中に唾を吐き入れて、「飲め」と迫る。ロムルスは、椀を払いのけてウルフラの顔にぶつける(1枚目の写真、矢印は木の椀)。水を浴びせられて怒ったウルフラは、「俺を侮辱したな!」と言うと、ロムルスの体をつかんでテラスから、崖の上にぶらさげ、「下までは遠いぞ」と脅す(2枚目の写真)。アブロシーヌスは、「何本指があれば足りるのですかな。オドケアル殿に仕える以上、そなたの運命は、この子供の手に握られている。もし、岩に投げれば、そなたも同じ目に遭うことになる」と警告する。確かに道理なので、ウルフラは、ロムルスに顔を寄せると、「その時が来たら、いいか、お前を、母や父と同じ所に送り込んでやる」と言い(3枚目の写真)、そのまま体を引き上げながらテラスに投げ飛ばす〔スタンドダブルだが、かなり痛そう〕。怒りの収まらないウルフラは、矛先をアブロシーヌスに向ける。そして、ロムルスは「傷つけるな」と命じられているが、アブロシーヌスに対しては何も聞いていないと言い、ロープで両手を縛って、テラスから海の上に張り出すように吊るす。


テラスから吊るされたアブロシーヌスは、隣の小さなテラスに五芒星の印を見つける。ここは、シーザーの血統最後のティベリウス帝の建てた場所。しかも、五芒星がある。ということは、この城塞の秘密の場所に剣が隠されているはずだ。アブロシーヌスは、そう確信すると、ロムルスに声をかける。「神殿に行くのだ。先祖のジュリアス・シーザーを捜しなさい。あなたを守るものがあるはず」(1枚目の写真、矢印は吊るされているアブロシーヌス)。ロムルスは五芒星のそばまで来る。「シーザーの見詰める先を探すのだ」。近くの壁には、シーザーの顔のモザイク画が施されている。ロムルスが瞳の部分を両親指で押すと、足元が開いて下に落ちる(2枚目の写真、矢印は落下方向)。中は、落ちてくる人間の安全に全く配慮されていない構造だった〔スタンドダブルは、またまた痛そう〕。そこは、城壁内部に設けられた秘密の空洞で、中は神殿のようになっていた。最奥部に立っているのはシーザーの像だ(3枚目の写真)。一方、島に着いたアウレリウスは、身軽なモナとともに、垂直に近い城壁を登ろうとしている(ロープの先に銛(もり)を付け、それを大型のクロスボウで城壁頂部に打ち込む)。


像の前まで来たロムルスは、像の足元に置かれた文字盤を読み上げる。「一方の刃で防御し、一方の刃で勝利せよ。余は、統治を運命付けられし者のため、ブリタニアにてこれを鋳造す」(1枚目の写真)。ロムルスは、像の手の下に立てて置かれたきれいな剣を外して手に持つ(2枚目の写真)。剣には「CAI • IVL • CAES • ENSIS CALIBVRNVS」と彫られている(3枚目の写真)。あるサイトによれば、「CAI • IVL • CAES」は、シーザーの名前「Caius (or Gaius) Julius Caesar」の略称、「ENSIS CALIBVRNVS」は「鋼の剣」の意味だとか。ロムルスは、剣に向かって、「あなたに仕えます」と言葉をかける。同じ頃、外では、アブロシーヌスが「吊るされ状態」から脱出し、アウレリウスたちが城壁を登りきるのを助ける。


地下神殿から、1つ上の地下貯蔵庫に抜け出たロムルスは、城塞内を歩くうち、ウルフラが眠っている場所を見つける。そして、父母の仇とばかりに剣を振り上げたのだが(1枚目の写真)、気配を察したウルフラは、剣が振り下ろされる前に身をかわす。逆に襲われそうになったロムルスは、走って逃げ、偶然、助けにきたアウレリウスと遭遇。思わず抱きつく(2枚目の写真)。アウレリウスが、単なる臣下から、親密な庇護者となった一瞬だ。この関係はその後もずっと続く〔親子のような関係ではなく、あくまで臣下の礼はわきまえている〕。アウレリウスは、後からロープを伝って登って来た部下たちにロムルスを託す。一行は、ロムルスの案内で地下に入り、抜け道から海の洞窟に出て、そこから泳いで舟に戻る(3枚目の写真、矢印は屈強な黒人兵に背負われたロムルス)。ロムルスが逃げる間、敵を引きつけていたアウレリウスとモナは、敵に囲まれてしまい、テラスから海に飛び込んで逃げ、舟に助け上げられる(4枚目の写真)。ウルフラは、シーザーの秘密の神殿を発見し、持ち去られた剣の意味を知り、直ちにロムルスの後を追いかけることを決断する。


陸に着いたロムルスの一行。辺りは夜になっている。シーザーの剣を、全員が物珍しそうに見た後、アブロシーヌスは剣を受け取ると、きれいに拭ってからロムルスの前に腰を下ろす。そして、剣をロムルスに見せながら、「この剣は 予言を運びしもの。文字をご覧になったか?」と訊く(1枚目の写真)。ロムルスが頷くと、「ならば、あなたは知るべきことをすべて知った。取りなさい。あなたのものだ」と渡す。一行は、約束通り、6日後に浜辺でネストルと使者に会う。アウレリウスは、ロムルスに、「あなたは、これで安全です。ここから、東方帝国のコンスタンチノープルに連れて行かれ、庇護下に置かれます」と教える。ロムルスの表情は寂しそうだ(2枚目の写真)。この後、ネストルとアウレリウスが2人だけで話し合う。ネストルは、現状を説明する。「使者は、コンスタンチノープルから指令を受けた。皇帝はあのを庇護しない。オドケアルに対抗したり怒らせたりはしない。情勢は変わったんだ。君が出かけてから、ローマの守備隊はオドケアルに忠誠を誓った。他の司令官もそう宣言した。全員がゴート族の側についた」〔片道3日で、直線距離でも1400キロ近くあるローマ~コンスタンチノープル間でどう通信したのだろう? 伝書鳩を使えば可能かもしれないが…〕。アウレリウスは、「もし、5000の兵があれば侵略者を追い出してみせる」と言うが、ネストルは、①オドケアルは野蛮人ではなく抜け目のない政治家、②元老院を見方につけた、の2点をあげ、「ありのままを受け入れろ〔We have to see things as they are〕」と説得する。そして、転身した場合の見返りはと、アウレリウスに訊かれ、「子供」だと答える。「シーザーのことか?」。「シーザーは過去のものだ。シーザーなどいない」。この頃、モナは、「皇帝をコンスタンチノープルに運ぶ舟はどこです?」と使者に訊き、殴られる短いシーンもある。これで、モナも異常を察した。そして、アウレリウスと部下のいるテントの前に置いてあった「何か」の幕が突然外される。それは、一度に12本の槍を発射できる装置2台だった。アウレリウスは、とっさにテーブルを盾にして隠れ、串刺しにされずに済む。その音を聞いてテントから飛び出たロムルスの前に、もう1台の装置が立ちはだかる(3枚目の写真)。串刺しにされかけたロムルスを救ったのは、身をもって盾となったアウレリウスの部下の1人だった。アウレリウスとアブロシーヌスは協力して1台に火を点け、もう1台は怪力の黒人兵が破壊する。それを見てネストルは逃げ出す。犠牲となった部下の前で追悼するアウレリウスと残った部下2人、ロムルス。逃げるネストルを見て、アウレリウスが剣を抜く(4枚目の写真、矢印は逃げていくネストル)。この後、ネストルはアウレリウスに剣で殺され、使者はモナによって刺し殺される。こうして、陰謀の目は摘んだが、一行6人は孤立無援の状態となってしまった。


その夜、6人は焚き火を囲みながら、今後の方針について話し合う。アウレリウスは、コンスタンチノープルには行けないし、ゲルマニアはゴート族の地なので、「ブリタニアに第9軍団がいる。それしか我々に残された途はない」と主張する。アブロシーヌスは、「司令官、どこに向かうか決めるのはあなたではない」と筋を通す。アウレリウスは、素直に、「シーザー?」とロムルスに声をかける。ロムルス:「北へ向かおう。ブリタニアへ」(1枚目の写真)。実は、これは、アブロシーヌスが最初から目論んでいたことだった。というのは、映画冒頭の独白の最後に、①アブロシーヌスはブリタニアで生まれ、②「生涯をかけて、剣と、それを使いこなすことのできる正しき者を捜す」と誓い、③ローマまで来た、と述べているからだ〔剣を見つけ次第ブリタニアに戻り、ヴォーティガンと対決するため〕。一行は、使者らとネストルの馬を奪って北北西に向かいアルプスを越える。当時、ローマから今のフランスに行こうとすれば、整備された道は、サン=ベルナール峠を越えてレマン湖に抜けるか、地中海沿岸を通ってプロヴァンスに抜けるしかなかった。何れも見張られているので、一行はその中間のどこかを抜けたのであろう。急峻な山を一列になって登る様は、『ロード・オブ・ザ・リング』の第1部を想わせる(2枚目の写真)。しかし、その後がいけない。峠の頂にたって、「この先はガリアだ」とアブロシーヌスが言い、カメラが引いて全員が映ると、背後の山の頂付近に何と木が生えている(3枚目の写真、矢印)。標高2000メートルを超えるヨーロッパ・アルプスの峠から見上げる山稜に木など生えてはいない。俳優が映っているので、どこか低地で撮影したのだろうが、ブルーバックで写真合成すべきだった。


一行は、舟で英仏海峡を渡り、ドーヴァーの辺りに上陸する(1枚目の写真)〔白亜の崖は、ブルーバックでの合成だと メイキングで述べていた〕。アブロシーヌスは、地面に身を投げて、「我が愛しきブリタニアよ」と感慨を露にする。その後、一行は徒歩で内陸に入っていくが、見つけたのは焼き討ちにあった村の廃虚(2枚目の写真)。誰も生きてはいなかったが、幸い馬を手に入れることができた。アウレリウスから、「誰がこんなことを?」と訊かれたアブロシーヌスは、ヴォーティガンと答える。ところで、296年以降のブリタニアは、Britannia Prima(今の南イングランド)、Britannia Secunda(ウェールズ)、Flavia Caesariensis(中部イングランド)、Maxima Caesariensis(北イングランド)に分かれ、現在のロンドン、グロスター、チェスター、リンカーン、ヨークなどが代表的な都市だった。それなのに、一行はなぜか最北端のハドリアヌスの長城(122-128年に建設、全長117.5キロ)に向かう。歴史的にはもういないはずの第9軍団が、この壁の警備を行っていると設定なのであろう。しかし、到着すると、城門は開け放たれ砦の中には誰もいない。アウレリウスは、「ここは そちの国だ。ここで何が起きた?」と訊くが、若い頃に国を離れたアブロシーヌスには答えようがない。アウレリウスは、部下に、「帝国はここで終わる。あるのはこの壁だけだ。幻の軍団のために、はるばるやって来たのか」と無念の気持ちを漏らすと、そのまま長城の上を歩いて行った(3枚目の写真)。映像では、所々に見張り塔が設けられているが、現状は4枚目の写真(私が撮影)のようになっている。これは、長城が一番きれいに見える場所から撮影したもの。


しばらくすると、農民のように見える男たち10名が城門にやってくる。アウレリウスたちを見たからだろう。「お前たちは誰だ?」と下から声がかかる。アウレリウスは、名前を述べ 「私の仲間と一緒だ」とのみ言う。相手は、クステニンと名乗り、「ここは、私のものだ」と言う。全部英語だからピンとこないが、6世紀の末まではブリタニアではラテン語が使われていたとあるので、両者が普通に会話しても不自然ではない。全員が一同に会した場面で、アウレリウスは、「私は、ローマの第9軍団を探している」と打ち明ける。「なぜ、こんなに遠くまで会いに来た?」。「ローマが陥ちた」(1枚目の写真、矢印はロムルス)。そして、「ここは、どうなってる?」と訊く。「竜の軍団はもうない」。「千名以上の兵(つわもの)がいたはずだ。打ち破られるはずがあるか? クステニン、私の同胞はどこだ?」。「司令官、私はフラウィウス・コンスタンティヌス・マルセラス、第9軍団の総司令官だ」。階級的には、アウレリウスの上官にあたる。その後、一行は、クステニンの居住地に向かう。「ローマは我々を見捨てた。ガリア人と戦っている者もいるが、家族はここに住み、ケルト人〔ブリテン島の先住民族〕のように暮らしている」(2枚目の写真)。そして、襲われた村はヴォーティガンによるもので、今は南ブリタニアの王だが、全土の支配を目論んでいるとも話す。その頃、シーザー追って来たウルフラは、ヴォーティガンと会っていた。ヴォーティガンは、自分が手に入れたかった剣がブリタニアに戻って来たことを知る。そして、村に着いた夜、アブロシーヌスは、剣の由来を村人に話す。天から落ちてきた火球が冷めて鉄の塊となったものを、鍛冶の長(おさ)が3日3晩休みなく鍛え、ライオンの血で焼き戻したものだと。そして、剣の柄(つか)の先端についた五芒星は、信念と真理の象徴であると。「この剣を持つ者は、誰であろうと、信念を持たねばならん。ただ一つの目的、真理のためにのみ用いると」(3枚目の写真)。アウレリウスは、クステニンに、「皇帝のために、立ち上がるつもりはありませんか?」と尋ねる〔この時点でも、アウレリウスは「子供」が「前皇帝」だと伝えていない〕。「我々は、死を賭して皇帝を護ると誓いを立てた。しかし、ゴート族が相手では、奇跡が必要だ」。


それから何日かしてから、ロムルスは、ほぼ同い年の少女と親しくなり、楽しそうに話している(1枚目の写真)。これと同じ場面ではないが、deleted sceneの中に、2人の会話が入っている。「私の父さんのクステニンは、あなたの父さんみたいに司令官だったの」。「父は死んだ」。「私、てっきり…」。「アウレリウスは、私の友だ。父と母は敵に殺された」、というもの。このことから、少女は第9軍団の総司令官の娘だと分かる〔映画の本編では分からない〕。次のシーンで、ロムルスはアブロシーヌスに至聖所のような場所に連れて行かれる。そこで打ち明けられたのは、そこがかつて剣の秘密の護り手の住む場所だったこと。そして、アブロシーヌスはそこにいた。ある日、剣を自分の物としようとするヴォーティガンがやって来て秘密を訊き出そうとしたので逃げたことも。そして、ロムルスに、「予言を覚えているか?」と訊く。ロムルスはシーザー像の下に書いてあった言葉を口にする。「余は、統治を運命付けられし者のため、ブリタニアにてこれを鋳造す」。アブロシーヌス:「私は、剣を捜そうとブリタニアを離れ、そして、あなたを見つけた。剣に書かれたことが実現するに違いないと知った」。ロムルス:「しかし、私は帝国を持たないシーザーだ。どうして予言を果たせよう?」。「教えたではないか。予言は信念がもたらすもの。そして、我々には信念がある」(2枚目の写真)。さらに場面は替わり、ロムルスが好きになった少女が、山羊を連れて池の端に来ると、目の前に突然ヴォーティガンが現れる。そして、「いいか、小さき者よ。帰って我が言づてを伝えるがいい。お前には、遠き土地より来た友がいる。その者を差し出せ」。そして、「見ろ」と言うと、そこに、母親と子供2人が兵士によって連行され、少女の見ている前で切り殺される。少女は、村に逃げ帰って倒れる。3人の死体も連れてこられる。それは、鍛冶屋の家族だった。少女は、クステニンの前で、「私たち みんな殺される」と泣きながら話す。「皆殺しにされるの… 差し出さない限り」。そして、ロムルスを指差して、「彼を」と言う。クステニン:「ロムルスを?」。「大好きなロムルスを」。クステニン:「その少年。特別な者だな?」。アウレリウス:「ロムルス・アウグストゥス・シーザーだ」(3枚目の写真)。「なぜ、我々なのだアウレリウス? なぜ、ここに連れて来た?」。


鍛冶屋の家族の死体は、ケルトの伝統に則り火で燃やされた(1枚目の写真)。その後で、一人残された鍛冶屋は、「俺は、今日、妻と2人の息子を失った。復讐がしたい。だが、ヴォーティガンに逆らえば、もっとたくさん死に、全員が殺されるかもしれん。それでは、復讐じゃなくて自殺だ。そのや、一緒に来た連中は、ここから出て行くべきだ」と主張する。クステニンが、「話を聞こう、アウレリウス」と言うと、ロムルスが、「私が話す」と立ち上がる。「あなたが言ったことは、すべて正しい。私はシーザーだ。私たちは、あなた方に忠誠を求めたが、ローマはあなた方に信義を欠いた」(2枚目の写真)「それが 正しき道で、多くの命を救うのであれば、私はヴォーティガンに身を委ねる。私は、ここで決められたことに従う」。その潔い言葉に、クステニンの息子〔推定〕は、「どうするんです? 我々の皇帝なんですよ!」と父に詰め寄る。アウレリウスは、「その決断は、いつかすればいい。まずは、最後の決戦だ。この明け方、私は仲間を連れて砦に向かい、そこで戦う。我々と共に戦わんとする者は、兄弟として歓迎する。そうしない者も、兄弟として別れる。諸君、ありがとう。シーザー、万歳」と述べ、仲間を連れて部屋を出て行く。朝、アウレリウスを先頭に50名ほどの兵士が砦へと向かう。昨夜のロムルスとアウレリウスの演説に心を打たれた賛同者が それだけはいたのだ。ロムルスが好きになった少女は、兄の子供時代の鎧を贈ってくれる(3枚目の写真)。その時、少女の肩に親しげに触れていくのが、昨夜の会議でクステニンに詰め寄った兵士。少女はクステニンの娘なので、兵士はその兄、少女の渡した鎧の昔の持ち主、クステニンの息子と推定して良いであろう。だから、鎧には、第9軍団の象徴であるドラゴンが刻まれている。この兵士は、後に、城壁上でアウレリウスが指令を出す時、アブロシーヌスを除く5人と共に6人目として一緒にいて、弓兵の指揮を任されるので、そのことからもクステニンの息子という推定は間違いないであろう。


決戦を控えて、ロムルスはアウレリウスに声をかける。「司令官、私は以前、あなたの剣を手に取った」。そう言うと、ロムルスはシーザーの剣を差し出し、「もし、交換を申し出たとしたら?」と訊く。これは、アウレリウスに対する最大の敬意の表現だ。それに対し、アウレリウスは、「その剣は、シーザーにこそ相応しいもの。あなたはシーザーだ。どこに おられようと。それを お忘れなく」と言い(1枚目の写真)、抱き締める。以前、カプリ島の砦で抱きつかれた時とは逆だ。あの時は、ロムルスはただの子供だったが、今や、昨夜の演説からも分かるように、一人前の男であり、それを認めてのアウレリウスの抱擁だ。それが終わると、アウレリウスはロムルスに微笑みかけ、高みへ登っていくと、一緒に来てくれた面々に話しかける。「我が友よ。我らは、何度もこのような朝を経験してきた。我らは共に日が昇るのを見たが、これが最後の日となるやも知れぬ」。そして、「第9軍団の兵士たちよ、我らは、祖先が作り上げた帝国のため、命を賭して戦ってきた。そして、帝国が灰燼に帰するのを見た。この最悪の事態に直面し、私は戦う相手などいないと信じるに至った。しかし、はびこる圧制と、無垢の者たちへの虐殺を見て、あと一度 戦わねばならないと思い知らされた。心と魂を苦しめる者たちからブリタニアを守るため、最後まで戦い抜こうではないか。そして、後世の者たちに、武勇と心意気を持ったローマの兵士がいたことを、語り伝えさせようではないか。シーザー、万歳!」と、兵士たちの士気を高める。兵士たちも、全員剣を抜き、「シーザー、万歳!」と叫ぶ(2枚目の写真)。


そして、砦に対面する丘の上の石の「門」に、ヴォーティガンとウルフラが乗馬姿で現れる。森からは、ヴォーティガンの兵が姿を見せる。アウレリウスは「千人か もう少しいるな。思っていたより少ない」と言う〔50対1000〕。城壁の上には弓兵が並ぶ。そして、ヴォーティガンの攻撃命令。兵士たちが一斉に斜面を駆け下りる(1枚目の写真)〔CGではない〕。弓が放たれ、さらに、枝を丸めて球状にしたものに火を点け、投石器で打ち上げる。その前の城壁の上にはアブロシーヌスが立っているので、魔法使いが火を放っているように見え、敵に恐怖心を与える。その後は、1対1の戦闘シーンとなる。剣術の手ほどきを受けていないロムルスの出番はほとんどないが、2つだけ見つけることができる。1つは、警護役のモナに切り付けられた敵兵にダメ押しするところ(2枚目の写真)。もう1つは、ロムルスに切りつけたが、体が小さいのでバランスを崩した敵兵のお尻を押して、城壁から転落させるところ(3枚目の写真)。その後、ロムルスは、城壁に立てかけられた敵の梯子の側木を滑り降りて、砦の外の戦場に出る〔梯子の滑り降りは、映画の冒頭で見せたのと同じ〕


戦闘はしばらく膠着状態だったが、クステニンが率いる第9軍団の本隊が現れ、形勢は俄然有利となる。ロムルスが岩陰から見守る中で(1枚目の写真)、敵の弓兵の攻撃に備え、密集方陣の歩兵が一斉に盾で防御する(2枚目の写真)。歩兵の背後には3列の弓兵が控えていて、敵からの弓が飛んできた後、3連続で弓を放って反撃する。敵が接近してくれば、盾の隙間から長い槍で反撃する。このような戦法に慣れていないヴォーティガンの兵には 有効だった。


形勢不利とみたヴォーティガンは、かつての至聖所に行き、聖なる火を消そうと枯れ木に投げ込むが、逆に木は炎上する。そこに、後を追って来たアブロシーヌスが来て戦いとなるが(1枚目の写真)、アブロシーヌスはヴォーティガンの黄金の面〔顔の醜い傷を隠すためのもの〕を剥ぎ取ると、「地獄で焼かれるがいい」と叫び、燃える木の洞の中に突き入れる。こうして、ブリタニア最大の悪は滅びた。アブロシーヌスは、石の「門」まで行くと、「見よ! 圧制者ヴォーティガンは死んだ!」と叫び、面を振りかざす(2枚目の写真)。それを見た敵兵は一斉に逃げ出す。


しかし、逃げない者が1人だけいた。それは、ウルフラ。ロムルスの姿を見つけると、斧を手にして馬を駆る(1枚目の写真)。ロムルスは、背を見せ 走って逃げる。それを救ったのは、同じく馬に乗って駆けつけたアウレリウスだった(2枚目の写真、矢印は逃げるロムルス)。アウレリウスはウルフラに飛びかかり、地面に叩きつけられた2人は、立ち上がると激しい剣戟を始める。剣で勝負はつかなかったが、最後は、ウルフラがアウレリウスに馬乗りになり、折れた棒で何度も叩く。放置すれば死亡するかもしれない。ロムルスは、シーザーの剣をウルフラに突きつける(3枚目の写真)。そして、「これは母上に」と言って剣を刺し、「これが父上だ」と言って さらに深く刺し込む(4枚目の写真)。


地面に倒れたアウレリウスを心配して真っ先に駆け寄ったのは、途中省略したが、お互いに結婚を誓ったモナ。ロムルスとアブロシーヌスもそばに寄る。ロムルスは、アウレリウスの胸に手を置き、「あなたは、竜のように戦った」と讃える。アウレリウスは、「あなたも、竜の息子のように戦った」と讃え、ロムルスの肩に手を置く(1枚目の写真)。ロムルス:「あなたは、かつて、私を守ると誓った」。アウレリウスは、以前の言葉をくり返す。「命にかえても」。ロムルス:「ならば、その誓いから解放しよう。生きるのだ、アウレリウス・アントニウス」(2枚目の写真)。唯一人 生き残ったアウレリウスの部下〔怪力の黒人兵は戦死した〕からシーザーの剣を受け取ったロムルスは、クステニンをはじめとする第9軍団の兵士たちの前に立つと、「わが軍団の最後の者たちよ、我らは、偉大な勝利を得た。今、ここに宣言する。もう血は必要ない」(3枚目の写真)。そして、最後に、「もう戦争は必要ない」と叫ぶと、剣を思い切り投げた。その剣は野に突き出た岩に突き刺さる。


長年の風雪で苔むした岩と剣のそばを、アブロシーヌスが、1人の少年に歴史を語りながら歩いていく(1枚目の写真)。少年:「司令官のアウレリウスは どうなったの?」。アブロシーヌス:「生きておるぞ。戦士のモナを妻とした」。「少年のロムルスは?」。「2人が、自分の息子のように育てた。そして、賢い統治者となった。ケルトの名を持った。『竜の息子』、ペンドラゴンだ」〔ブリテン王ユーサー・ペンドラゴン “Uther Pendragon” の意味は、正しくは、『竜の頭』『竜の首領』であって『息子』ではない。映画では、アウレリウスの言葉に合わせて、敢えて『竜の息子』としている〕。「ペンドラゴン… 私の父上だ」(2枚目の写真)。「少女のイグレーヌのことも知っておろう。彼はイグレーヌと結婚した」。「私の母上?」。「そして、アブロシーヌスは元の名前に戻った。マーリンとな」〔マーリンのフル・ネームはアンブローズ・マーリン〕。そして、少年の名はアーサー。最後に岩に刺さった剣の刃がクローズアップされる。苔で見なくなった部分を除くと、そこに顕れた文字は、「E • S • CALIBVR」(3枚目の写真)。有名なアーサー王伝説の剣エクスカリバーだ。


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